「野球小説 続・プレイボール」の【特に印象深かった試合】(第49話時点)
第一に挙げたいのは、やはり「準決勝 谷原戦」です。
原作のラストは、谷原との練習試合に大敗しつつも練習に励む墨谷ナイン、そして墨高の甲子園出場の可能性を感じさせる記述で終わっています。
プレイボールの主人公が谷口くんであることを考えれば、続編の命題は「谷口くんの代で、谷原に勝って甲子園出場を達成する」になります。
ちばあきおさんが描くなら、常に正解であり、ファンがどのように感じるかだけの問題ですが、別の方が描くとなると様々なファクターを踏まえなければならず、非常に難題となります。
その難題を自然かつ論理的に描ききったという点において、この「準決勝 谷原戦」は、他の試合とは比較できない絶対的に秀逸な試合ということになると思います。(もちろん、第1話から谷原戦の前話までの緻密な展開・流れがあってこその谷原戦ではありますが・・・)
谷原戦が、素晴らしいと感じた点について具体的に書きたいと思います。
たくさんあるのですが、あえて一点に絞って書きたいと思います。
それは、谷原戦が決勝ではなく「準決勝」だという点です。
先ほどの命題「谷原に勝って甲子園」を素直に考えれば、物語の盛り上がりも踏まえて、谷原戦は決勝です。
しかし、練習試合で大敗した谷原に勝つのは、様々なファクターが揃わなければ描けません。
原作において、谷原は練習試合で控えの野田を先発させましたが、墨高にノックアウトされています。
他にめぼしいピッチャーは見当たりませんので、墨谷戦では村井が先発し完投するのが前提です。
墨谷戦が決勝であれば、疲労はあるものの村井は力を出し切るのみです。
練習試合を踏まえれば、本来の投球をする村井を打ち崩すという描写は、かなり難しいものになります。
しかし、佐野との投手戦が予想される決勝の前日に、墨谷との準決勝が来れば話は別です。
墨谷への格下意識と相まって、余力を残して墨谷に勝つという発想に至ります。
これこそが、墨谷が谷原に勝つというストーリーを自然かつ論理的に描くという意味で素晴らしい点です。
準決勝・谷原戦、決勝・東実戦という組合せが、先ほどの命題をクリアするために最も自然で論理的な組合せということになると考えています。
そして、この組合せというファクターがあるからこそ、イガラシ以外は村井の内角ストレートを捨て粘って変化球を打つ、井口の先発、苦手だけでなく得意コースもつく、打者の膝の上げ方によるコースの投げ分け、谷原がミート打法に切り替えた後の投球組立の変更、片瀬の投入という複数の作戦が生き、島田のタイムリーが出るまで試合を作るという描写が可能になっていると考えられます。
そして、試合を作り墨高が粘れたからこそ、九回のイガラシと谷口の殊勲打、延長の谷口の好投、久保のサヨナラホームランが違和感のない論理的帰結として読者は受け入れることができるようになると考えています。
ちなみに剛速球投手の井口と荒球の変則投手の片瀬が谷原を一定程度抑えることができたのも自然で論理的です。
練習試合で打ち込まれた当時の谷口は、球速は現在ほどではなく、精密なコントロールを武器に、速球と変化球のコンビネーションで抑えるタイプの投手でした。
このことの逆説的な帰結として、井口と片瀬が谷原を抑えるという描写がなされても違和感はありません。むしろ十分推論可能な帰結と言えます。
いずれにしても、この「準決勝 谷原戦」は、南風の記憶さんが、原作を愛し、原作を深く理解したうえで、原作の世界観を大切にしながら多くのファクターを緻密に紡ぎ上げた珠玉の作品と言うことができると思います。
好き勝手に感想を書かせていただきました。
谷原戦以外の【特に印象深かった試合】については、また日を改めて書きたいと思います。